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国際オリンピック委員会(IOC)はインドのムンバイで開いた総会で、2030年と34年の冬季五輪開催地を同時決定することを正式に決めた。
候補都市は11月末にIOC理事会で絞り込み、来夏、パリで開く総会で決定する。30年大会招致を断念した札幌市に時間の猶予はなく、34年大会招致も絶望的となった。
同時決定の方針が固まったことに、日本オリンピック委員会(JOC)の山下泰裕会長はムンバイで「えっ、という感じ。(同時決定を)議論するのは予想外だった」と述べた。
札幌市の秋元克広市長も「山下会長から同時決定の可能性は少ないと聞いていたので、少し驚いた」と語った。
驚いたのは、こちらの方だ。これほど大事な情報を得られないまま招致の戦略を協議していたことに対してである。
山下、秋元両氏が席を並べて会見し、30年大会の招致断念と34年以降の招致を目指すと明らかにしたのは直近の11日だ。山下氏はこの会見でも同時決定の「可能性は低い」と述べていたが、わずか数日で今後の招致目標は霧散したことになる。
IOCの情報を取得するのはJOCやIOC委員の職責に頼るしかない。JOCの会長であり、IOC委員でもある山下氏は、IOCの判断に「読み違えたのは事実」とも述べたが、そんな言葉で済ますほど軽い失態ではあるまい。
30年大会招致断念の会見では市民の理解が得られなかった要因に東京五輪を巡る汚職、談合事件の影響も挙げられたが、山下氏からは東京五輪の当事者としての明確な猛省の弁を聞くことはできなかった。
JOCの主たる業務は選手の育成と強化、国際総合大会への選手派遣、オリンピック・ムーブメントの普及・推進である。選手強化は各競技団体が、派遣事業は事務方が担うなら、幹部の主務は五輪運動の意義を語り広めることだろう。
札幌への招致断念について山下氏は「明確な大会開催の意義が見えないといったところもあった」と述べた。それを語るのがJOC会長の職責ではないのか。その自覚はあるか。
日本は五輪開催にふさわしい国でありたいと考える。そのため現体制は一度解体し、出直すべきではないか。
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2023年10月17日付産経新聞【主張】を転載しています